椎名林檎の特別講義「音楽からのギフト」(J-WAVE+FM COCOLO WHAT’S ART)
2023年1月9日(祝)放送
J-WAVE+FM COCOLO HOLIDAY SPECIAL
「KYOTO GEIJUTSU DAIGAKU presents WHAT’S ART」
https://www.j-wave.co.jp/holiday/20230109/
以下、文字起こしです。
前半
─さてここからは椎名林檎さんをお迎えして「音楽からのギフト」というテーマでお話を伺っていきます。椎名さん、今日はどうぞよろしくお願いします。
「お願い致します…お手柔らかに。光栄です、お目にかかれて」
─椎名さんの特別講義を受けられるということで
「そういう趣旨ですか。ちょっと…力不足かと存じますが」
─いやいや、とんでもないです。まず質疑応答を進めさせて頂きますと、京都芸術大学が番組スポンサーですが、京都ってよく行かれますか?
「ええ、よく伺ってるほうだと思います。特に20代の頃によく。毎年、南座に12月の公演に伺って。そのときはどんなに忙しくても御粧し…着物を着てっていうのが恒例で」
─お目当ての方がいらっしゃったんですか?
「仁左様。仁左衛門が好きで。関西の方なので、あっちで拝見すると上方言葉でのお芝居が見れたりして良かったです。最近ちょっとご無沙汰しちゃってますけど」
─実際に京都に行って、刺激を受けるというか、インスパイアされた経験とかありますか?
「そうですね、京都はもちろんそうですね。あと京都の文化の影響を色濃く受けた福井とか金沢とかにも。北陸が好きで。昨年末は北陸に何回も伺ってました」
─この番組、アートがテーマなんですけれども、ご自宅にアートって飾ったりとかしますか?
「そうですね、トム・サックスのものなどは主人も好きでよく家に置いてますけど。私自身は割と暮らしに根差したものが好きで、器をたくさん集めてしまってますね。でも飾るよりは使ってしまっております」
─それがやっぱりいいですよね、伝統工芸とか産業品の物って。
「そうですね。着物もそうですけどね。やっぱり身につけてこそ真髄が…そのものの本質が感じられたりするような部分もあるのかなと」
─京都とか金沢とか福井に行かれた時も買ったりしましたか?
「焼き物はどちらかというと九州で買うことが多いですかね。長崎とか佐賀とかの土物が好きです」
─自宅に美術品、アートがあると、作品作りに影響したりしますか?
「まさに食卓を有しているときの自分の感覚というのが凄く似ていると思うんです、曲を作る上で。どの器にどういうお料理をっていう。だからファンサイトなんかでもそういう写真だけは絶対乗せないようにコロナ禍前まではしていたんですけど…なんかネタバレみたいな気がして。だけど、最近はコロナ禍で主婦のお客さんとの情報のやり取りとして。冷蔵庫の残り物をどうするかっていうのと、自分の持ってる音色をどういう風に一番マックス引き出すにはどうするかみたいな考え。料理は専門家じゃないですから、たかがしれてます」
─そこを見せちゃうとネタバレになるような…。
「抵抗がありましたね、一時までは」
─音楽の作り方と似てるって、すごく分かる気がします。どういうパッケージに入れてとか、順番とか…。
「あと音楽の場合はビデオをどんなものでアプローチするかとか、ビジュアルのイメージとかも関わってきますもんね」
─今回、京都芸術大学の副学長である総合プロデューサーの小山薫堂さんから、いつか質問を預かっていまして。そこにいらっしゃるんですけどね。その中で「お寿司と天ぷらを食べて涙する」っていうのがあるけど、それってそういうことですか?
「それもそうですけど、お寿司とか天ぷらなんかはすごくライブのセトリと同じだなと思って。最初に何をまずお腹にスタートダッシュをかけるために、どういうふうに刺激してくださるかって、凄く似てますよね」
─時間芸術じゃないけど…。
「そう、時間を操作するっていう意味でもそっくりだから。悔しくなりますよね。こういうライブをやってみたいなとか」
─完璧な流れとかありますよね。お寿司屋さん。
「そう、それを感じ取るとやっぱり泣いちゃいますよね。悔しいのもあるし、よくここまでこんな方々が修行して…結構たくさんいらっしゃるじゃないですか、カウンターの中に。みんなに学ばせてあげてやってらっしゃるのにジーンとなっちゃうですよね。時間と手間と愛ですよね」
─ライブを見る時もそういう気持ちはあるんですか?
「そういう気持ちになって頂きたいから…そうですね、尽くしたいですね」
─最近、お寿司とか意外に感動したこと、涙が出そうみたいな。出たというのって何かありますか?
「だんだんと、人の手のかかったものを感じるというのもありながら、年を経ていくと大海原であるとか山とか人の手の入ってないものに感じ入っていきませんかね。若い頃からあるけど、より一層。年末の日本海の荒波、翌朝のすっきりと晴れた日差しとかになんか涙が出るような思いがありましたね」
─北陸の鉛色の空に殺されるって
「そうそう、そういう感じですよね。ちょっと感じちゃう時ありますよね。自分を写しちゃうんですよね、おばちゃんになってくるとね、たぶん…思い馳せて」
─これを聞いている方で、美術とか芸術に触れたい学びたいという方が結構いると思うんですけど、何に触れると才能とか感性が開花するって思いますか?
「お若い時で、しかも何か特別なものを持ってらっしゃいそうな方には、大人が「そんなの聞いてんの?」「そんなの見てんだったらこれ見てなきゃダメだよ、聞いてなきゃダメだよ」って仰ると思うんですけど、若い時ってそれどころじゃない。それも気になるけど自分の中で知りたいことが多分お忙しいと思うんです。多分その感の方の順番に従ったほうが、私は正しいと思いますね。大人になって、いろんなものに見飽きたときに、それでも自分が学びたいっていうものをどれだけ見つけられるかが、現役選手としての力の差だと思うんですよね。お若い皆さんの頃から、ちゃんと自分の中にある欲求を、いかに素直に取り出せるかじゃないかなと。結局はそのような気がしております」
─そこの欲求に気づくのがすごく難しくて。これ好きだったら、影響を受けたこれって辿って行かなきゃって。オタクの教養ってそういうもんだって教わってきたから。
「たしかにある。そういうものもある。だけど作る人はそういうだけでは足りないんですよね、私が思うには。厳しいようだが、学問のように学んだことだけからは生み出せないですよね。獣のようなつもりで、自分の中からこう、欲してるものを感じとるって言うことがまず。ただ同時に人のその抹香臭い大人の嫌なのはスルーする力が必要ですけど、ただし、いろんな方のお話、それからいろんな場所にお住まいの方の暮らしを見に行ったり、自分の力で感じて、それを理解しようとすること。体感することによってやっぱり理解力が深まりますよね。アーティストとか言っても、基本的には人間としてどれだけ深まっていくか、どれだけ優しくなっていけるかなので。愛を深めるためには、やはり色んな物に触れるべきだと思います」
─自分の感覚でいくっていう。椎名さんは色んな所に行ったり、人と会う時って事前にあんまり調べなかったりするんですか。まっさらな気持ちで行った方がいいのか。私すごい調べちゃうタイプなんですけど。
「それはいいことじゃないですか。せっかく行ったのに、こんなとこあったんだっていうのも知らなかったっていうのは残念ですから。自分の欲求で良いんじゃないですか。見た上でそそられるものに対しての素直な動きっていうのが大事なんじゃないですかね」
─自分で見つける力と自分の本能が騒ぐもの。
「アーティストはいい人間であるっていうのを1回捨てなきゃいけないんじゃないかなと。自分の我儘というのを研ぎ澄ましていかないと、タッチが生まれないんじゃないかしらねと」
─自分と向き合って、自分の魂が喜ぶものを突き詰めて。最後は愛なんですよね。
「それはやっぱり育てていかないと、昨日今日で仕上がるもんじゃないですか。それは温めながらですかね。表裏一体」
─後半でも色々伺って行きたいんですけど。今年デビュー25周年を迎えられるということで。
「商業的な話(笑)ありがとうございます。恐れ入ります」
─明後日1月11日に初のオフィシャルリミックス・アルバム百薬の長リリースします。こちらどんなアルバムに仕上がってますか。
「どうでしょうね…私は夢叶えていただいたと言うか、何も私は作業してないんですけど。かつて作ったものに対して皆さんが二次創作してくださったと言うか」
─この作品をこの方にリミックスして欲しいとかも、椎名さんが?
「全然。聞かれたことは答えたけど…どっちがいいかなとか。主人なんかは色々言ってたかな…人に頼んだ方がいいとか、せっかくだったらとか」
─できあがって、こんな風になったんだって作品も?
「感激しております。びっくりしました」
─せっかくなので、その中から1曲お届けしたいんですけれども。どれにしましょうか?『丸の内サディスティック』のMisoバージョンこちらはどんな作品ですか?
「Miso氏の可愛いお声が最後に確かめていただけるので、是非注意してていただきたいと思います」
─わかりました。曲紹介お願いしてもいいでしょうか。
「はい。百薬の長バージョン、Miso Remixで丸の内サディスティック」
後半
─お聞きいただいたのはMiso Remix『丸の内サディスティック』でした。凄くかっこいいですね。
「光栄です」
─声も可愛いですしね。
「浮遊感たっぷりのビートで気持ちよかったです。ありがとうございます」
─引き続きですね、小山薫堂さんから質問を頂いてるので、色々聞いていきます。まず京都芸術大学で教鞭を取るとしたら、またはアートとは何か教えるとしたら、どんな授業をしたいとかどういうテーマで教えたいとか、何かありますか?
「パッと思ったのは、いかに道具を使わないで工夫できるかっていうことをやりたいかなと。例えば紙一枚でレ・クリントの照明器具みたいなのもできるし。五線を書いて音楽も作れるし。そういう方向のことの方が面白そうだなと思います」
─確かにアートと技術って昔から結びついている分、いろんなものを使ってできるけど、あえて何も使わないと言う。
「何がなくてもっていうところにまた立ち返るのもいいなと。さっきね、曲がかかっている間話してましたけど、へしことか、北陸の保存食にお感じになるって。泣きそうになったりとか。共感してくれましたね」
─食に泣きたくなるっていう、お寿司のお話を伺った流れで。
「人の手が入ってて工夫が何回も試行錯誤を繰り返した跡が見られる気がしてってことですよね」
─保存食って本当先人の知恵が詰まって、頑張って作ったと思うとわたしは泣けちゃいます。
「その創意工夫を受け取れるからこその涙ですよね。冷蔵庫もなくて、取れたお魚もこれしかないから。ダメにしちゃったりとか」
─私、ミスタードーナツがとっても好きなんですよ。あれをそんなに均等に全部作れた企業努力も泣きそうになるんですよ。あのクオリティで。
「私もコンビニエンスストアでも泣いたりしますよ。よくこれを!って。これを大量に工場でこの味を実現できたって、ものすごい研究したからだと思うけど、このスピードを実現してるのも凄いとかね。ミスタードーナツもそういう気持ちで頂いてみるわ」
─コンビニですね。コンビニも確かにレベル高い。
「お惣菜で。毎年毎年よくこんな新しいアプローチで…。研究したっちゃろうねーって。泣きながら食べてます」
─ご自身の作品でも同じ影響を与えたい?
「そうですね。なかなかお席を頂けないようなお料理屋さんもそうなんだけど、両方の部分から学びがありますよね。日々学びって暮らしの中にありますよね。自分の切実な暮らしのニーズからのほうが学びやすいかもしれないなと、よく思います」
─確かに日常に潜んでる。ご自宅に食器とかがあるとおっしゃっていましたけど、伝統産業にも精通が深いと…
「全然。着物着たり、焼物が好きっていうぐらいで全然ですよ。ただ北陸で是非見てきて頂きたいんですけど、木の植え方とか建物建て方にすごく特徴があって。そういうふうに町全体をそうするのってすごく難しくて。職人さんが代々伝えてきてる何かマナーがあるんだと思うんですよね。各地にそういうものがあると思うんですけど」
─そうですよね、その地域ならではの。
「大々的に伝統産業っておっしゃってるかどうかわかんないけども、そういうものも。お庭作りとか」
─あと北陸では冬に木を守るためでもありますよね、雪から。
「そのニーズも手伝ってると思うんだけど、かっこよくて…。お寺の袈裟とか建物も痺れます」
─そういうものに触れて、でもやっぱり気づく力が大事なんですね。スルーしちゃうっていうところがどうしても私含め多くの人があるけれど。そこにちゃんと気づくって何かコツってありますか?
「大学に通ってらっしゃるような、アートに興味がある方はもう、日頃からそれを、小さい頃からそうだったんじゃないですかね、きっと。親御さんの影響とかもやっぱ強くて、ビジュアルとか手を使ったものに興味ある方ばっかりなんじゃないですかね」
─椎名さんも実際、幼い時の影響が出てることってありますか?
「出てますね。むしろ母が作ってるんじゃないかって思う瞬間があって。いまこの話で初めて思い出したけど、器なんかやっぱり、名のあるものか無いものかっていうよりは、母の作ったお料理をプレゼンするための相応しさとかで、母の審美眼で選んできたんでしょうね。それを多分静かに感じて貯めてきたんだと思うんです」
─今日は1日「ギフト」をテーマで送りしてるんですけど、椎名さんが考えるアートとか私たちに与えてくれるギフトって何だと思いますか?
「今の母の話もそうだけど、ある時にふと、何十年も経ってから、ふと合点が行く事っていうのもあって。さっきの木の植え方の、形がかっこいいんだけど、実は雪に耐えるための切り方なんじゃないかってこともありますけど。ある時、人々のいろんな自分以外の価値観に基づいて生まれて守られてきてる哲学に気付くっていう成長が…大幅に成長できる瞬間っていうのが必ず来る。タイムカプセルみたいな働きの部分で大事にしたいというか、良いものだと思っていますね。ギフト」
─今すぐ役に立つとかではなく、いつか合点が付いてそれが自分の力になっている。
「パッと効き目があるっていうだけじゃなかったりするじゃないですか。だっていろんな人がいろんなこと考えられているから。作りたい人なんだったら、やっぱりそういうものをいっぱい享受して楽しんで頂きたいですよね、是非」
─最後に、今日成人の日で成人を迎えた方に一言メッセージなどありますか?
「そうですね…やっぱり身近な方とか、これから出会う方とたくさん愛の交換をして、馬鹿やって頂きたい。それが一番賢くもなれるし、素敵になれるお近道なんじゃないかなと。…偉そうにすみません。楽しんで頂きたいです、人生」
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